日本の企業経営ではしばしば、「適性配置」とスローガンを唱えながら、客観的または科学的な根拠がないままに、上司の主観や印象で向き・不向きを決めているケースが多いのですが、これは改革すべき課題です。
まずチェーンストアをめざす上で、必要なマンパワーは、スペシャリストとワーカーに大別されます。その両方の人々がすべて生涯勤務をするわけではありませんが、出店と成長が最適なスパイラルで継続されなければチェーンストア展開は挫折します。健全なチェーンストアをめざす経営システムにあっては、企業の成長と従業員の幸福な生涯設計の両面から逆算すれば人間のビジネス能力の要素を、次の6通りだと考えるのが妥当です。
素質、教養、知識、経験、リーダーシップ、意欲
1)素質
いわゆる適性のことで、生まれつきの、向き・不向きのことです。適性とは優劣ではなくて、この面では能力を高めやすく、別のこの面ではしにくいという区別のことであって 知能指数や偏差値のことではありません。
2)教養
教養とはエチケットのことではありません。未知の分野に挑戦できる基礎的な理解力のことです。学力は関係がありますが、学歴は無関係です。「教養がない」というのは、難問を避けたがるとき、あるいはそのことに臆病な気配を示した際、と思ってほしいのです。
3)知識
これは、ビジネス社会では技術力の基礎条件です。学校生活で学んだはずの知識は、そうした技術上の知識を習得するための準備知識のことであって、断じて本体ではありません。ですから「自分は満たしている」と思うことなく、日常的に「まだまだ」と否定を重ねて、年ごと月ごとに技術知識を生涯かけて学び続けるものであることを意味しています。
4)経験
体験が能力に結びついたとき、経験となります。「感」が「勘」になることです。体験しても能力に結びつかない人が沢山いますが、その原因はこれが仕事だろうと自分なりに解釈しているからです。体験を能力に結びつけて経験にするためには、次のことが重要です。
①完全に、現在の職務(命令で要求されている仕事の種類)と作業とをマスターすること。「マスターする」とは、みずから完全にルールどおりに実行でき、さらにただちに採用される改善策が出せるようになる、という意味です。記憶したとか、ひととおりできるということではありません。
②どんどん配置転換を受けて、多種類の職務と作業とをマスターすること。
この、二つの条件で進歩します。このため、現在の職場における職務と作業を個人的な好き嫌いで対応したり、配転を嫌うのでは、みずからの能力の向上を否定していることになるので注意しましょう。
チェーンストア経営の慣習では、職位配転は一年半~2年が最適です。すなわち18ヶ月~24ヶ月単位です。当然に、転勤は能力向上のために不可欠な教育対策と考えられています。
5)リーダーシップ
本当のところ、リーダーシップが正しく理解されていないので、誤ったトップ批判や責任転嫁、やりがいのなさで誤解されチェーンストア勤務の問題につながっています。 リーダーシップこそ諸問題を整理する上で重要なキーワードになっています。
日本では統率力とか指導力と受けとめられがちですが、チェーンストアを志す企業が産業として最初に成立したアメリカでは、よい意味での「権威」という意味に使われています。言い換えれば、他の人々から敬服される状態のことです。部下はもとより、同僚、そして先輩、最後に上司からも一目置かれる状態になったときです。さらに言えば、「この件は君にまかせるよ」と上司が脱帽する状況を指しています。
チェーンストア経営では、このリーダーシップのあることが証明されないかぎり、スペシャリストには任命されないのが正常な状態です。
だから、幹部になってからリーダーシップが期待されるのではなくて、スペシャリストになる前から、つまりワーカー段階からひそかに心がけて、敬服されうるような地味にして継続的な努力がいるのである。これこそが、プラ
イベートな努力テーマなのです。
ただし、二十歳代で教養や知識や経験が傑出するわけはないのだから、残るのは体力、いやハードワークを我慢しているようには見えない様子でやってのけられることが、第一歩だといえます。
6)意欲
未熟な若年のうちは、これまでの5つの要素は発揮しにくいものばかりです。したがって、この最後の意欲だけが、唯一の要素ということがでます。つまり、やる気です。「積極性」「徹底した意志」と表現できます。「根性」と言い直すことも可能です。つまり勤務の最初の段階では意欲だけがとりえなのです。しかし、意欲は本当のところ、初期あるいは若年期だけの問題ではありません。それが、一生涯持続できることが必要なのです。
他の5つの能力を構成する要素の水準が高まれば高まるほど、より積極的で、より強固な、より徹底した意欲がいるからです。言うなれば、それは生涯計画として、いつの時期でもこれでよしではなく、高めていくべき要素なのです。
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